第25回日本健康教育学会学術大会

シンポジウム 1

「健康長寿をめざして:沖縄の課題と取り組み」

コーディネーター:琉球大学保健管理センター准教授 崎間 敦

単に平均寿命の延伸のみならず,健康寿命の延伸と健康格差の縮小がヘルスプロモーションにおける重要な取り組み課題となっている。沖縄県は,復帰後に実施された国勢調査で,平均寿命が男女とも全国1位となり,その後も全国トップの水準を維持してきた。しかし,平成17年度の平均寿命の都道府県別ランキングでは,沖縄県の男性の平均寿命が大幅に後退し,女性も1位を維持してはいましたが,平均寿命の伸びが全国平均を下回った。さらに,平成22年度の沖縄県の男性の平均寿命が30位に後退し,女性も1位から3位に陥落した。今,沖縄の健康長寿が揺らいでいる。その要因はいくつか考えられるが,特に青壮年期における循環器疾患の危険因子である糖尿病などの生活習慣病,メタボリックシンドロームおよびその予備群の急増,肝疾患や高血圧性疾患の年齢調整死亡率が全国よりも高くなっている。沖縄県では,この健康課題を克服し,健康寿命の延伸と健康格差の縮小を目指して,大学,行政,教育委員会および地域が連携したヘルスプロモーションが展開されている。今回のシンポジウムでは,その取り組みに至った背景,現状および今後の方向性についてディスカッションする。

「沖縄島嶼における循環器疾患の疫学」

奥村 耕一郎
琉球大学医学部附属病院地域医療システム学講座

脳卒中や心筋梗塞を発症すると、たとえ一命をとりとめても後遺症を残す事が少なくなく、その結果本人や家族そして社会へ及ぼす影響も小さくはない。琉球大学が1990年前後に行った調査では、沖縄は諸外国と比べ心筋梗塞罹患率は低いが、脳出血の脳卒中に占める割合が高いという特徴がみられた。また県内で脳出血の割合が高かった宮古地域での罹患率の推移をみると、脳出血は1990年前後に比べ2000年前半には低下していたが、逆に脳梗塞そして脳卒中全体の罹患率は増加していた。これら沖縄での循環器疾患疫学研究の結果を基に、沖縄の健康状況について考えていきたい。

プロフィール:
金沢大学医学部卒業。沖縄県立中部病院で研修、離島診療所に勤務後、琉球大学医学部第三内科で循環器専門医として診療および循環器疾患の疫学研究に従事。在ラオス日本大使館勤務後、現在、琉球大学医学部附属病院地域医療システム学講座に所属。

「ソーシャルキャピタルと健康」

白井 こころ
琉球大学法文学部人間科学科准教授

近年、沖縄の健康長寿を巡る環境は、平均寿命第1位の健康長寿の島から、中高年層の早世率第1位の生活習慣病先進県へと、大きくイメージ転換した。沖縄県の生活習慣病対策には、ハイリスクアプローチと併せて、ポピュレーションアプローチが重要であり、経済格差対策や健康情報格差への対策等、多面的な取り組みが必要とされている。複眼的な取り組みの一つとして、現在琉球大学が県と協働して取り組んでいる健康増進事業をはじめ、沖縄の人的関係資源を活用した健康長寿復活の取り組みの可能性と、人と人との繋がりと健康の関係について検討する。本報告では、特に沖縄におけるソーシャルキャピタルと健康のメカニズム仮説を中心に報告する。

プロフィール:
琉球大学法文学部人間科学科准教授。大阪大学大学院医学系研究科社会環境医学講座(公衆衛生学)修了。同講座研究員、特任助教を経て、現職。ハーバード大学公衆衛生大学院(Department of Social and Behavioral Sciences)研究員。専門は社会疫学、公衆衛生学、老年学。日本疫学会評議員、公衆衛生学会評議員、社会老年学会評議員。

「次世代へ向けたヘルスプロモーション」

田名 毅
沖縄県医師会理事,首里城下町クリニック第一院長

26ショック以降、保健・医療界は各種取り組みを行ってきたが現時点では成果は出ていない。従来の方法とは違った方法を考える必要性に迫られていた。平成26年に沖縄県の長寿復活を目指した交付金事業の一つとして沖縄県保健医療部と教育庁の横断的事業として、次世代の子ども達を健康に導くための副読本を作成するというプロジェクトが企画された。この作成を沖縄県医師会が委託され、「食育」「生活習慣」「こころの健康」の3班を編成し、平成27年県内のすべての公立・私立小学校(食育、生活習慣)中学校(こころの健康)に副読本が配布された。今回は私が代表委員を務めた「食育」を中心に本取り組みを紹介し、我々医療従事者が次世代の健康教育のために何が出来るかについて考えてみたい。

プロフィール:
首里城下町クリニック第一・第二理事長。琉球大学医学部、九州大学医学部大学院(医学博士得)。琉球大学勤務後、2001年よりクリニックを開業。総合内科、高血圧、透析医療の各専門医。那覇市医師会理事として生活習慣病、慢性腎臓病対策、沖縄県医師会理事として災害医療対策、医療事故調査制度を担当。毎月1回地域向け医療講演会の開催、学校医、また産業医活動等社会への健康啓発・増進に努めている。

「地域の大学が取り組むヘルスプロモーション」

崎間 敦
琉球大学保健管理センター准教授

健康寿命の延伸と健康格差の縮小を目指したヘルスプロモーションにおいて、多職種が連携する健康支援システムの確立が重要となる。沖縄県では、健康長寿の復活を目指して、大学、行政、教育委員会および地域が連携した健康行動実践モデル実証事業(ゆい健康プロジェクト)が展開されている。ゆい健康プロジェクトは、特に生活習慣病のリスクの高い青年期・壮年期の健康意識を向上させ、科学的に実証された健康行動に誘導する新たな手法の確立を目的としている。今回、本プロジェクトにおける大学の役割ついてまとめ、これからのヘルスプロモーションへ提言を行う。

プロフィール:

1992年
琉球大学医学部医学科卒業、同第三内科入局
2000年
琉球大学医学部循環系総合内科学講座助手
2002年
Wake Forest大学 Hypertension & Vascular Disease Center リサーチフェロー
2004年
琉球大学医学部循環系内科学講座助手
2007年
同助教
2008年
琉球大学保健管理センター准教授 現在に至る
資格
医学博士
日本内科学会認定医、日本高血圧学会専門医、同評議員
Fellow of Japanese Society of Hypertension (FJSH)
Fellow of American Heart Association (FAHA)
日本医師会認定産業医

「総合討議」

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