静岡県伊豆市の修善寺地区は夏目漱石、井伏鱒二などの文豪が滞在した温泉街。修善寺川は桂川の通称で知られ、川沿いには温泉や旅館が並んでいます。和風の町並みは伊豆の小京都と呼ぶに相応しい趣ですが、歴史に関しても京都級。1194年には源頼朝の弟・範頼が自刃に追い込まれ、1204年には頼朝の子・頼家が暗殺されています。また、修善寺に点在する桂谷八十八ヶ所巡礼の札所(石碑)には四国霊場の土が埋まっており、巡ることで功徳を得られます。地域の顔である修禅寺にも必ず立ち寄りましょう。
目次
福地山修禅萬安禅寺
地名の由来にもなっている古刹「福地山修禅萬安禅寺」
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神社仏閣
修禅寺は807年に弘法大師が開基した寺院です。当初は真言宗でしたが、鎌倉時代に臨済宗へ、室町時代に曹洞宗へ改宗しています。宗派の変遷により、釈迦牟尼仏ではなく大日如来を本尊としているのが特徴で、大日如来坐像は国の重要文化財に指定されています。像内より発見された毛束は北条政子、あるいは辻殿の髪と予想されていますが、真相は不明です。また、行事にも宗派の壁を越えたものが伝わっており、冬至に行われる「星まつり」は本来、密教の法です。宝物殿「瑞宝蔵」には『修善寺物語』誕生のきっかけとなった「頼家の仮面」があります。ほかにも政子が寄進した「宋版放光般若波羅蜜経」など貴重なものが数多く展示されているので必見です。
修禅寺 山門
平安時代の金剛力士像が守護する「修禅寺 山門」
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神社仏閣
修善寺エリアを代表する古刹・修禅寺の山門。静岡県に多く見られる四脚門ながら、「純和様の四脚門」としての稀少性から、平成25年に「修禅寺の山門」として伊豆市の文化財に指定されました。平成26年には約150年ぶりの修復工事を終え、左右に仁王堂が新設されています。ここで睨みを利かせている木彫りの金剛力士像は修禅寺の経堂「指月殿」から運ばれたもので、明治の初期までは横瀬にあった総門を守っていました。作者不詳で文化財には指定されていませんが、平安時代に作られたとされており、およそ1,000年もの歴史を誇っています。183cmと大柄な成人ほどの大きさなので、近くに寄ると現実感を伴った迫力を味わうことができます。
修善寺平和観音
75年の時を超えて蘇った「修善寺平和観音」
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神社仏閣
「修善寺平和観音」は修禅寺の裏山にある観世音菩薩の石像です。高さは台座込みで約4.5m。かつては金属製の観音像が設置されていましたが、戦時下の供出で失われ、しばらくは寄進者の名前が入った台座を残すのみとなっていました。しかし、平成27年に石製の観音像として復活。この際、世界平和の願いを込めて「修善寺平和観音」と名付けられました。「善」の字を使っているのは「お寺の観音像ではなく地元民の観音像である」と意識してのことです。木漏れ日の中でアルカイックスマイルを浮かべる姿は神秘的なので、雨天を避けて晴れた日に訪れてみてください。また、登り口にある寺山公園では鳥が飼育されています。経路上にはヤギ小屋もあり、動物の姿も楽しめます。
独鈷の湯
1200年前に弘法大師が噴出させた「独鈷の湯」
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温泉
伊豆最古・修善寺温泉の発祥とされているのが「独鈷の湯(とっこのゆ)」です。807年、弘法大師が桂川で病身の父の身体を清める少年の姿に感じ入り、独鈷杵で岩を突いて温泉を噴出させたと伝わっています。のちに病気の父は温泉の力で元気を取り戻し、地域に湯治の文化が根付いたそうです。現在の「独鈷の湯」は桂川中州の岩盤上に設置された東屋の内側で慎ましく湧いています。残念ながら入浴禁止ですが、近づいての見学は可能です。また、1961年に修禅寺の裏山で平安期の密教法具が出土しています。その中には長さ24cmほどの金銅独鈷杵が含まれ、伝説の独鈷杵と噂されています。こちらは修禅寺の「瑞宝蔵」に収蔵されているので、併せての観覧をおすすめします。
指月殿
北条政子が寄進した伊豆半島で最も古い木造建築「指月殿」
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神社仏閣
指月殿(しげつでん)は、修禅寺の川向かいにある経堂です。非業の死を遂げた源頼家の鎮魂のために北条政子が建立し、修禅寺に寄進したとされ、境内には頼家の墓に加えて、頼家の忠臣たちが眠る十三士の墓が設置されています。堂内には丈六釈迦如来坐像が鎮座しています。これは高さ203cmの木像で、通常は徒手とされる釈迦如来でありながら、右手に蓮の蕾を握っているのが特徴。鎌倉時代の作品で、静岡県の文化財に指定されています。また、政子が寄進した「刺繍釈迦三尊仏」や「宋版一切経」の一部が修禅寺の「瑞宝蔵」に収められています。
虎渓橋
『修善寺物語』に登場する「虎渓橋」
桂川に掛かる虎渓橋(こけいばし)は独鈷の湯を眺めるのに適した朱塗りの橋です。北側には「修禅寺の山門」、南側には指月殿があります。橋の歴史は長く、北条政子が指月殿を寄進した際に掛け替えが実施されたと伝わっています。岡本綺堂の戯曲『修善寺物語』の第二場の舞台としても選ばれており、念願叶って源頼家に仕えることになった女性・桂が虎渓橋の袂で「若狭の局」の名を与えられる一幕は作中でも屈指の名場面です。なお、虎渓橋には恋愛成就のご利益と「あこがれ橋」の別名が設定されています。
桂橋
竹林の美しい光景が楽しめる朱塗りの橋「桂橋」
桂橋は虎渓橋と同じく桂川に掛けられた朱塗りの橋です。桂川を挟んで北側には河原湯という無料の足湯が存在し、寛ぎながら修善寺温泉の象徴・独鈷の湯を望むことができます。南側には竹林の小径があります。これは楓橋の辺りまで続く遊歩道で、両側にある孟宗竹(もうそうちく)の林は京都嵐山さながらの美しさです。夜間には竹林のライトアップが行われ、日中とは違った雰囲気を楽しむことができます。なお、桂橋には子宝祈願のご利益と「結ばれ橋」の別名が設定されています。
滝下橋
「恋の橋めぐり」の終点「滝下橋」
滝下橋は桂川に掛けられた橋です。北へ向かうと赤蛙公園、川沿いに東へ向かうと楓橋、桂橋、虎渓橋、渡月橋があります。滝下橋には夫婦円満のご利益と「安らぎ橋」の別名が設定されているのですが、これは渡月橋から滝下橋まで五つの橋を巡る「修善寺温泉 恋の橋めぐり」という町興し企画に起因するものです。五つの橋には異なる恋愛関連のご利益が割り振られているので、あわせて訪れましょう。また、それぞれの橋には橋紋と呼ばれる御影石のエンブレムが埋まっています。魅力溢れる修善寺の風景に目を奪われるかもしれませんが、あえて足元に注目すると、新たな発見があるかもしれません。
日枝神社
安産祈願の聖地にして、源範頼が自刃した「日枝神社」
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神社仏閣
日枝神社は修禅寺の隣に佇む神社です。弘法大師が創建した山王社で、祭神は大山咋神(おおやまくいのかみ)。修禅寺の鬼門を守っていましたが、明治期の神仏分離により独立しました。大山咋神には家内安全、子孫繁栄のご利益があるので、パートナーとの参拝がおすすめです。また、境内には樹齢およそ800年の杉の木が2本あり、根本が繋がって一つの樹木になっていることから、「子宝の杉(夫婦杉)」と呼ばれています。間を通ると子宝に恵まれるといわれていますが、樹木保護の観点から、現在は通ることができません。また、境内には源頼朝の弟・源範頼が自刃に追い込まれた信攻院の跡地があります。現在では後年に設置された庚申塔が残るばかりですが、諸行無常を感じられることでしょう。
赤蛙公園
修善寺の風物詩が詰まった小さな箱庭「赤蛙公園」
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公園
赤蛙公園は温泉街の西端、桂川沿いに位置する小さな公園です。遊具の類はありませんが、季節を感じられる穴場として、ツウに愛されています。2月の中旬から下旬には紅と白の梅の花が楽しめます。また、4月には枝垂桜が咲き、初夏には「ほたるの夕べ」というイベントが催されます。このイベントは園内の小川でホタル観賞を楽しむ行事で、6月の中頃にピークを迎えます。ライトアップされた竹林の小径を通って赤蛙公園まで足を伸ばし、桂川のせせらぎをBGMに儚く光るホタルを眺めれば、旅の良き思い出になることでしょう。ちなみに、名称の由来は作家・島木健作が修善寺で療養していた際に構想した短編「赤蛙」。園内には愛らしい蛙の石像も設置されています。
修善寺自然公園
伊豆最大級の紅葉の聖地「修善寺自然公園」
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公園
修善寺自然公園は温泉街の北西にある公園です。園内には夏目漱石句碑、葭原観音堂、桂谷八十八ヶ所霊場の札所などがあります。伊豆エリア最大規模の紅葉スポットとして有名で、およそ1ヘクタールの「もみじ林」には約1,000本のイロハカエデ、トウカエデ、オオモミジが生育しています。鮮やかな色合いに定評があるこれらの木々は大正13年、旧修善寺町の町制施行を記念して植樹されたものです。見頃は11月中旬から12月上旬。時期に合わせて「もみじまつり」が開催され、露店で甘酒、おでん、地元の野菜などを買い求めることもできます。急な坂道もありますが、林の北側にある富士見台からは紅葉の彼方に富士山を望むことができるので、足を伸ばしてみましょう。
修善寺梅林
山肌を薄紅色に染め上げる「修善寺梅林」
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自然
修善寺梅林は修善寺自然公園の南東部に広がる約3ヘクタールの林です。秋には小高い丘の上に、およそ20種類もの紅白の梅が咲き乱れます。梅の総本数は約1,000本にも及び、中には樹齢100年を超える老木もあるとか。2月の上旬から約1ヶ月間に渡って開催される「梅まつり」の時期に合わせて来訪すれば、山肌を彩る薄紅色の梅林を存分に楽しむことができます。弁当を持ち込み、花見を楽しむ人も少なくありません。また、燻製や鮎の塩焼きなどの軽食の販売も行われるので、これらを肴にお酒を嗜むのも一興です。くれぐれも、ゴミの始末は忘れずに。
ギャラリーしゅぜんじ回廊
修善寺の季節を切り取った「ギャラリーしゅぜんじ回廊」
しゅぜんじ回廊は「竹林の小径」と繋がっている和風のギャラリーです。楓橋寄りに位置しており、文字通り回廊に沿って展示スペースが設けられています。入場は無料なので、散策のついでに気軽に立ち寄って観覧することができます。季節感のある修善寺の写真が展示されているので、これから目にするであろう修善寺の景色を前もって予習し、期待感を膨らませていくのは如何でしょうか。
温泉地として有名な修善寺には、激動の時代を生きてきた源氏の史跡、温泉で心身を癒した文豪の足跡が数多く点在しています。温泉に浸かって疲れを癒しつつ、修善寺の観光スポットをめぐってみてください。
※2021年3月1日時点の情報です。
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